くさつFarmers' Market

取材記事

2019.03.22

活きた土地を育て、引き継ぎ、滋味野菜をつくり育てる。フードサイクルエコ農法に取り組む近江園田ふぁーむの想い。

近江園田ふぁーむ[近江八幡市]

マーケットには、お野菜、フード、草木などが並び、日々の暮らしを多くの農家さんや出店者さんが支えてくれています。その中でも滋賀県近江八幡市で活動している、『近江園田ふぁーむ』はサラダレタスミックスや、サラダ春菊、紅法師など、少量多品目で彩り豊かなお野菜を育てられています。

この日、農園を案内してくださったのは、飯盛加奈子さん。飯盛さんは、近江園田ふぁーむで2018年からスタートした、『近江園田ふぁーむ野菜部』を担当し、育てた作物をくさつFarmers‘ Marketへ届ける役割も担ってくださっています。

もともと、大阪で介護福祉士をされていたそうですが、3人のお子さんの子育てとの両立に疲れ、少しリセットしたいなという思いから、飯盛さんのご主人の親元がある滋賀へ戻ってこられました。そこで手伝いをしているうちに農業の魅力に惹かれ、農業の道へ進んだそうです。

近江園田ふぁーむで最も特徴的なのは、環境に配慮した循環型農業(フードリサイクルエコ農法)に取り組まれている点。取材では、「約40年かけて育ててきたのは米ではなく土」だとおっしゃっていました。

今回は、土壌に注目した理由や、その土地を後世に引き継ぎ、育てていく。そんな理想を追い求める姿と想いを伺いました。

約40年かけて育ててきたのは米ではなく土

近江園田ふぁーむの栽培面積は120町。東京ドームで例えると25個分となり、とても大きな土地を有しています。これほど広い土地を、近江園田ふぁーむの現会長 “園田耕一” さんが、一代で築かれたそうです。

しかし、園田さんが賞賛されている点はこれだけでなく、『フードサイクルエコ農法』に取り組まれてきた点にあります。フードサイクルエコ農法とは、学校や企業の食堂などから排出された食品廃棄物を専用の生ごみ処理機で堆肥化し、米ぬかなどを混ぜ、成分調整した有機肥料(フードロスコンポスト)を活用して農作物を育てることです。もちろん、安全面や栄養素の観点でも十分に考慮された上で実施されています。

フードロスコンポストから生まれた作物は、堆肥として回収させてもらった企業や学校に食材として納入することで、一過性ではない持続可能な未来に繋がるリサイクルシステム「フードリサイクルエコ農法」として確立させてきたそうです。

耕一さんは、年間約23トンを生ゴミ堆肥として再利用して土づくりに取り組んできました。

実際に、生ゴミを堆肥化させて作られる生成物を見せていただきました。ニオイは全く臭くなく、お出汁のような良い香りがします。

園田さんはこのフードサイクルエコ農法を通じて、廃棄問題と向き合ってきました。

日本における年間の食物廃棄の量は472万トン(令和4年度)に上ると言われています。日本のお米の年間生産量が約670万トン(令和4年産)であることを考慮すると、年間に生産するお米の約7割をただただ捨てるために育てているということになります。

膨大な資源を費やして作物は育てられているけれども、そこから出る廃棄物も多大なコストと資源をかけて焼却されているのが現状です。

「届けようひとつ上のご満足 活きた土がいのちを育む」という理念には、耕一さんの軌跡が集約されているように感じました。

10億の微生物が存在する地を引き継ぐ『野菜部』

園田さんが、フードリサイクルエコ農法でひたむきに育ててきた田んぼの土。
土壌を化学的に分析し、肥沃度を評価する「土壌肥沃度指標(SOFIX)」によると、近江園田ふぁーむの土には1gあたり、約10億の微生物が存在していることがわかったそうです。

これは、一般的な田畑(農薬や化学肥料使用)では1~2億であることと比べると、SOFIX推奨値が6億と、大幅に上回る数の微生物が存在していることがわかります。微生物は土の中に存在している有機物を分解する役割があるので、近江園田ふぁーむの土は、多様性が保たれることにより、植物の免疫機能が高く、病害に対する拮抗力を強く持っていると言えます。

そんな土を使ってつくられるお野菜。当初は空いた土地を利用して、休み時間に趣味程度で育てていたそうですが、マルシェで販売した際にお客さんにとても喜んでもらえたことをきっかけに野菜部が発足されました。

野菜部を引っ張っているのは、”晋川さん”。野菜の栽培経験が豊富だったため、飯盛さんが誘って、他の担当部署から野菜部へ入ったそうです。訪問した日も、ビニールハウスの中で、育苗中の苗の世話を黙々とされていました。

そんな『近江園田ふぁーむ 野菜部』ですが、少量多品目で面白く美味しい野菜を届けたい、という想いを持ち、スーパーではあまり見かけない野菜を育てられています。2018年は、結束2年目にも関わらず、50品目もの野菜を育てられたそう。

晋川さんの一つ一つ丁寧な作業は、野菜を生命ある生き物として接しているような、あたたかさを感じました。 

精神的な深い味わいを滋賀でつくり育てる

『栄養豊富でおいしい食べ物。豊かで深い精神的な味わい』

そんな”滋味野菜”をつくり育てる、これが近江園田ふぁーむ 野菜部の理想です。

理想を追い求め、野菜部は、化学合成農薬・化学合成肥料は一切使用せず、食べ残しから堆肥を製造するフードリサイクルエコ農法を実践。米ぬか・もみ殻など自社農園から出るものを贅沢に使用し、野菜を育ててきました。

多くの時間と手間をかけて丁寧に育てられた近江園田ふぁーむの滋味野菜は、飯盛さんがくさつFarmers‘ Marketへ届けてくれています。

マーケットに届ける想いを伺った際には、「マルシェへの出店などを通じて、他の農家さんや、いろんな方々と出会え、繋がりが生まれていくのも楽しい!」と語ってくださいました。

執筆後記

『ゴミの山を宝の山に変える』

誰もが願う理想を本気で追いかける姿を、取材で拝見しました。そこには、他人事のように捉えてしまいがちな社会問題に対して、正面から向き合い続ける強さがあり、同時に、どこかの誰かに期待をしている自分に気づかされました。環境に対する一つ一つの行動をめんどくさいで済ますのは簡単ですが、見て見ぬふりをしない強さを学び、そんなかっこいい人になりたいと思いました。よろしければ、みなさんもご一緒に。園田さんや飯盛さんを初めとした近江園田ふぁーむの皆さんの想いが、すこしでも伝播していきますように。

イタリア野菜の一つ、ロマネスコ

春の風物詩、スナップエンドウ

絹さや

自家製のポン菓子、大豆ぽん