2023.12.19
人との繋がりを広く、深くする。キッチンカーだけでなく、新たに店舗を開いたNINA SPICEのその先
NINA SPICE[大津市]
くさつFarmers‘ Marketでは野菜やお菓子、珈琲などさまざまなお店が並びます。その中でも、一際いい香りを漂わせているのが「タンドリーチキンライス」や「ジンジャーポークライス」などスパイス料理を販売する『NINA SPICE』です。ペールオレンジと緑の可愛らしいキッチンカーで販売しており、店主であり、店名にもなっている中野ニナさんのアイコンが目印です。
2023年7月、NINA SPICEは新たな挑戦として、滋賀県大津市北比良に店舗をオープンしました。パートナーである中野蒔郎さんとニナさんのこだわりがぎゅっと詰まったお店になっています。
今回は新店舗に訪れて取材を実施しました。なぜスパイス料理をキッチンカーで販売するようになったか、NINA SPICEの原点から店舗開設の理由まで、たっぷりとお話を伺いました。
2人の想いが詰まったお店で、多国籍なスパイス料理を
比良駅から徒歩15分ほどの場所に、NINA SPICEの店舗『NINA SPICE STAND』があります。「水が綺麗な場所に住みたくて、ここに辿り着いたんです」と語る蒔郎さんが案内してくれました。
2023年4月から約3ヶ月にわたって、建物を一部解体しつつ、リノベーションをしました。天井や鉄骨などの塗り作業は知り合いを呼んで「みんなで作っていった」と言います。
また、知人のお店が閉まるということで、カーペットや椅子、ライトなどを引き継ぎ、それらに合うようなインテリアをアンティーク屋で選んでいったと言います。
蒔郎:キッチン周りの壁に敷き詰めているタイルと、『NINA SPICE』をネオン管で作るという構想が一番最初にありました。なので、他のインテリアを決める前に、すでにその2つはセッティングしていましたね。
NINA SPICEは、映像会社に務めていた経験がある蒔郎さんがロゴやチラシ、ステッカーなどのデザインを担当しており、店舗の企画も実施したそうです。一方で、ニナさんは料理を担当。父親がイラン人ということで、イラン料理特有のスパイスを使った料理を提供しています。
ニナ:メニューは、ジューシーなお肉にスパイスを合わせた『タンドリーチキン』と、メキシコのソウルフード『チリコンカン』が定番です。チリコンカンは動物性の製品を使っておらず、ヴィーガンの方でも召し上がっていただける料理になっています。さらに、もう1つ『デイリースペシャル』として、週替わりでガパオやルーローハンなど、いろんな国のスパイス料理を提供しています。
東京、そして滋賀という土地で、スパイス料理を届ける
2019年1月、ニナさんの地元である東京でNINA SPICEが始まりました。大学生だったニナさんは、部活に大半の時間を捧げていたそうです。けれども、「このまま社会に沿った生き方は違うかもしれない。進みたい道は就職ではないかもしれない。」と違和感を持ち始め、思い切って部活動を辞め、行きたかったハワイに訪れました。そこでの出会いが、人生の転機となったそうです。
ニナ: 訪れたハワイでは、キッチンカーで働く人たちが輝いて見えたんです。ハワイのキッチンカーでは、日本の焼き肉丼みたいなものや、ガーリックシュリンプもあって、様々な料理が販売されていました。また、ハワイでは子どもを育てている女性がキッチンカーで料理をしていることが多く、どの女性もエネルギッシュでかっこよかったんです。その時に、帰国したら私もキッチンカーをやろうと、決めましたね。
キッチンカーではどんな料理を提供するかも大切です。ニナさんは父親がイラン出身で、幼い頃から食べてきたスパイス料理を提供することに決めました。スパイスに関しては、父親から教えてもらったり、本を読んだり。「とにかく作って、失敗してを繰り返しながら、どんな料理を提供するか模索していった」と言います。
日本人である私たちは、「スパイス料理」と聞くとカレーを想像しがちかもしれません。しかしNINA SPICEでは、タイ料理のガパオライスやインド料理のタンドリーチキン、チャイなど、国に縛られずに様々な料理とドリンクを提供しています。なぜ、様々な国のスパイス料理を提供しているのでしょうか。
ニナ:お客さんには「カレーは無いんだ」と言われることが多いんですけど(笑)。そのようなお客さんにこそ、タンドリーチキンを食べてもらいたいと思っています。そして、「スパイス料理ってこういうのもあるんだ」と気づいてもらいたいです。NINA SPICEがきっかけで、「これは何のスパイスが入ってるんだろう」とか疑問に思ったり、「このスパイスを使ってみたい」と興味を持ってもらえたりすると嬉しいです。
人との出会いを生み、繋ぐ。
東京でキッチンカーでの販売を始めて約1年半後、蒔郎さんの地元である滋賀へ拠点を移して、2023年7月には店舗を構えるという新しい挑戦を始めました。キッチンカーだけではなく、なぜ店舗でも活動するのか、理由を聞くと「繋がり」というワードがニナさんの口から出てきました。
ニナ:店舗を始めて、キッチンカーと両立するのは、もっと人との出会いを大切にしたいと思ったからです。キッチンカーの強みは、遠い場所までいけて、人と出会うことができます。そして、店舗の強みは、繋がった人たちが会いにきてくれることです。キッチンカーで繋がりを“広め”、店舗で繋がりを“深め”ていく。だからこそ、両方やる意義があると思っています。
とはいえ、店舗とキッチンカーを蒔郎さんとニナさんの2人だけできりもりしていくのは、なかなか難しいため、蒔郎さんの弟などの仲間が協力してくれているそうです。
また、「繋がりを大切にしたい」というニナさんの想いは、NINA SPICEが提供する料理の食材選びにも影響しているそうです。
ニナ:NINA SPICEのお米は、くさつFarmers’ Marketで知り合った、KANEMORI HAWAIIさんのお米を使用しています。お野菜もやまのしずく農園さんや近くの農家さんのものを使用しています。
やはり、顔が見える関係の人たちから食材を購入したいという気持ちが、活動初期からありまして。東京では、なかなか難しかったのですが、滋賀に移住してからはくさつFarmers‘ Marketに出店したこともあり、人と繋がりやすくなったなと感じます。
次の季節に向けて、新たなレシピを考案中
2023年7月に店舗のオープンという挑戦を始めたばかりのNINA SPICEですが、今後どんなことを考案しているのか伺ってみました。
蒔郎:来年の夏に、スパイスを使ったかき氷だったりスイーツを提供できないかなと考えています。暑い日に、タンドリーチキンを食べるのはちょっと重たくて、食べやすいスパイス料理はないかなと。チャイシロップのかき氷とかが良さそうだなと思ってますが、まだ構想中です。楽しみに待っていてください!
執筆後記
最近、3~4年ぶりに再会する友人が多い。私が京都から東京に引っ越したということもあり、東京の友人と出逢いなおしている。あの頃と変わらない姿に懐かしさを感じつつも、「私が引っ越してきて、声をかけなかったら再会することもなかったのかもしれない」と、ちょっと切なくなる。
それほど「繋がり」というのは、脆くて儚いものだと感じている。恋人とか、家族とか、強力な繋がり以外は、努力し続けないと保つのが難しい。NINA SPICEはその難しさと、真摯に向き合っているのではなかろうか。キッチンカーで遠くにいるあの人に出会い、店舗で変わらず美味しい料理を提供し続ける。「あ、今日はニナさんと蒔郎さんに会いに行こう」と思ってもらえるよう、何度でも『出逢いなおし』ができるよう、そこにNINA SPICEは今日もあるのかもしれない。
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