くさつFarmers' Market

取材記事

2024.04.03

農業を通じて心と体を健康にしていく。ピロール農法でベビーリーフを育てるGENが繋ぐ想い

GEN[甲良町]

野菜の幼葉の総称「ベビーリーフ」を知っていますでしょうか?スーパーで販売されている多品種が混ざったミックスパックと言えば、思い浮かぶ人も多いかもしれません。

滋賀県の東部にある甲良町で、水菜やほうれん草、ルッコラ、レタスなどのベビーリーフを育てているのがGENの片岡健児さんです。土壌のバクテリアを増やし、土本来の力を引き出す「ピロール農法」を取り入れています。

ベビーリーフを育てるだけでなく、芋掘りイベントを開催したり、キッチンカーでくさつFarmers’ Marketに出店したり、活動の幅が広い片岡さん。どの活動も「体と心・健康と食の大切さ」を実現していくことだと言います。

なぜそこまで幅広い活動をしていくのか、「体と心・健康と食の大切さ」に込められた想いを取材では伺いました。

 

元気な野菜を育てるには、バクテリアから

取材に伺った12月上旬、片岡さんの畑にはほうれん草や水菜のベビーリーフが並んでいました。春に差し掛かった3月や4月には、レタス、特にロメインレタスが収穫次期を迎えるそうです。まだ成長しきらない、発芽後10〜30日程度の若い葉菜であるベビーリーフを、どのように育てているのでしょうか。

基本的になんでも育てています。レタスやルッコラ、ほうれん草、水菜など。育て方としては、1週間に1畝を収穫できるように進めています。この畝は先週、あちらの畝は先々週に種をまきました。できるだけ毎週の収穫を途切れさせないよう逆算して種まきをしています。

また、農薬を使わずに育てているので、ビニールハウスを使っています。何度か外での栽培に挑戦したのですが、虫対策がなかなか難しく……。といっても、ビニールハウスも虫対策が万全ではないです。季節ごとにどんな虫がいるかを見極めつつ、何を植えたら食べられないか試行錯誤しています。

片岡さんが農業で大切にしていることは、周りの声に惑わされず、自分自身で農業に必要なことを考え、選択していくことです。例えば、以前は作業の効率化のために、水やりを自動でしてくれる設備を導入してみましたが、今は稼働させていないと言います。

最近、「自動化」という言葉をよく耳にすると思うのですが、私は全てを自動化すればいいとは思っていないです。経営的には助かりますが、自動化することで失ってしまうものがあるなと。その1つが、野菜から広がるコミュニケーションです。

私が考える農業は、ただ野菜を育てて販売することではないです。「水菜が旬だからサラダにしてみようか」だったり、「片岡さんの畑、熱暑で大変みたいね」とか、野菜を中心に家族や友人とのコミュニケーションを広げられることも私がすべきことだと思っています。設備の自動化をしてしまうと、そのコミュニケーションの種もなくなってしまうのではと懸念しています。なるべく自分の手で野菜を育て、どのように野菜が育っているかを伝えていきたいです。

他にも、片岡さんの畑で特徴的なのは「ピロール農法」という、土壌のバクテリアを増殖させて、土本来の力を引き出す農法を取り入れている点です。

鶏糞・乾燥促進剤(生石灰・苔土石灰・もみがら灰)・米糠が含まれている。

ピロール農法では、“バクテリアの餌”となるようなものを畑にまきます。植物の育ちをよくする肥料とは違って、土の中にいる「シアノバクテリア」という微生物を活性化させるのがピロール農法です。ですので、農薬をまいて、バクテリアがいなくなった“やせた土地”に、いくらこの餌をまいても戻らないんですよね。ピロール農法を実践する前に、どんなバクテリアが畑にいるのかを調査してもらい、この土地に合う餌を配合しています。

土壌のバクテリアが元気な証拠に、畑の至るところで苔が生えている。

農業で心と体を大切にする日々を過ごす

片岡さんが農業を始めたのは、2019年のこと。10年以上工場に務めており、「このまま会社員で人生を終えるのかな」と違和感を抱いていたそうです。何か自分にできることはないだろうかと考え、始めたのが祖父が残した農地で野菜を育てることでした。

会社員をしながら、独学で農業を学んでいた2020年。この年は、片岡さんにとって人生を見つめ直す年になったそうです。

私はシングルファーザーなのですが、2020年に離婚していまして。そのきっかけを振り返ると、自分自身でも気づかないところで、無理をしていたなと。というのも、やりたいこと、言いたいことを押しとどめてしまい、それが体と心にも影響をしていました。仕事のことも、家族のことも「自分がよくなかったんだな」と気付き、体と心を健康にしていく大切さが身に染みました。

「ここから自分は生まれ変わるんだ」と決心した片岡さん。同時に、「今までと同じように生活をしていたら、いつまで経っても変わらない」という不安も抱いていました。そんなときに出会ったのがピロール農法でした。

直感的にですが、心と体を大切にする鍵は農業にあると思ったんです。そこから農業について調べまして。でも、「作物を育てるために、この肥料をまけ」「虫対策には農薬を」みたいな情報ばかり。「みんなが肥料をまくから、わたしもやる」だと、また流されてしまう気がしたんです。ちゃんと自分が納得する栽培方法で、農業をしたいと思い、そこで出会ったのがピロール農法でした。

農機具を販売している人に、「健康な体をつくるために、農業をしたい」と話してみたら、ピロール農法の存在を教えてもらいました。調べれば調べるほど、自分のやりたいことに合っているような気がしたんです。

 

仕事と家族を振り返ると見えてきた生き方

ピロール農法について知るべく、ピロール農法研究所 所長の黒田与作さんへ連絡をしてみたそうです。「とりあえず来なさい」という黒田さんの連絡を受け、ピロール農法研究所がある福井に。どのようにピロール農法を実践するのかを教えてくれるのかと思いきや、黒田さんは全く異なる質問を投げかけてきたと言います。

全然、野菜の話をしてくれないんですよ。「君はどういう人間だ?」みたいな質問ばかりで。隠さずにこれまでの仕事のこと、家族のこと、農業で心と体を健康にしたいことを話しました。すると、黒田さんは、「じゃあ大丈夫だ」と言って、農法や農業の意義を教えてもらいました。

また、「単に野菜を育てて、お金儲けをするのではなく、健康な家族を増やすために農家をしていきなさい」という言葉もいただきましたね。そこで改めて、野菜を育てることと、人を育てることは一緒だと感じました。

黒田さんからもらった「健康な家族を増やす」という言葉が、片岡さんに大きく響いたと言います。そして、どうしたら健康な家族を増やせるのか、たどり着いたのは「食事」でした。

家族で一緒に食事を取ったり、そこで会話が出来ていれば、家庭は円満になりやすいと思っています。それが自分はできてなかったんですよね。働きすぎて家に帰ってこれないことが多かったり。そこから家族のすれ違いが生まれやすいと考えています。一緒に食事ができる環境があれば、気持ちの共有ができて、なんとかなると思うんです

家族のコミュニケーションを育む機会を増やしたいという想いのもと、親子を対象としたイベントを畑で開催しています。そのためにも、ベビーリーフだけでなく、さつま芋も育て始めました。「芋掘りや焼き芋づくりなど、さつま芋は人と人を繋ぐポテンシャルがありますから」と片岡さんは語ります。

親子向けさつまいも掘りイベントの様子(片岡さんより提供)。

同じ土地で作業をし、共に食卓を囲む。また、汗水垂らして作業する親の姿は、子どもが普段は見ることができなかったり、また逆も同様です。「仕事や学校と忙しい日々のなかに、農業を通じて家族の時間を共有する場を提供していきたい」と言います。

「うわ!この野菜苦い!」とかでいいんです。ちょっとしたことを共有できる場があれば、家族の関係が良好でいれるのかなと思っていますし、そのような家族を、農業を通じて増やしていきたいですね。

 

体と心・健康と食の繋がりを広めるために

「農業を通じて体と心を大切にしていきたい」という想いがあるものの、その想いをお客さんに届けることは、まだまだ試行錯誤をしていると言います。

農業を始めた頃から道の駅でベリーリーフを販売しているのですが、「お兄ちゃんこれ高いな」とお客さんに言われたんです。 私は相場の価格を調べて、自信を持って販売していました。販売価格という表面的な部分で野菜を評価されていると思うと、とても悔しかったです。一方で、なんでこの野菜を育てているのか、自分の想いも伝えていかなくてはいけないと学びました。

現在も『道の駅 せせらぎの里こうら』でベリーリーフを中心に販売している。

そこで、直接お客さんに想いを伝えるために、『走る農家』をコンセプトにキッチンカーを始めました。自身で野菜を育て、販売もしながら、イベント開催やキッチンカーでの出店もする。「体と心を大切にする」という目標を実現するためには、手軽な万能薬などなく、一つ一つを考え抜いて実施していくことが大切なのかもしれません。

焼き芋はくさつFarmers’ Marketでも販売。ベビーリーフがたっぷり入ったタコライス共に販売されています。

そんな片岡さんは、甲良町の地域活性に今後挑戦してみたいといいます。

この甲良町では、結構空き家が増えてきてて。「使ってみないか」というお話をもらったりして、どう活用できるかを考えています。例えば、野菜を用いた商品を開発する拠点にしたり、大人や子ども関係なく集える場所にしたり。経済面でも、人との交流という面でも、地元が潤うと、私が目指している「健康な家庭そして家族を増やすこと」に近づけることができるのではと考えてますね。

執筆後記

人生の三分の一は、仕事だといわれています。家族のためと、一生懸命になるからこそ、いつの間にか心身がボロボロになっているなんてこともあります。なぜそうなったのか、自分は何を大切にしたいのか、一度立ち止まって考える時間も必要かもしれません。片岡さんは、人生を見つめ直し、農家という新たな一歩を踏み出しました。新たな人生を歩むのに遅いなんてことはなく、いつでも挑戦へ踏み出せるのだと。そう教えてくれた気がします。