くさつFarmers' Market

取材記事

2021.12.19

珈琲の世界へようこそ。一人ひとりの好みに沿って提供する「自家焙煎工房 焙煎香珈琲」のこだわり

自家焙煎工房 焙煎香珈琲[草津市]

珈琲は魅惑的で、沼だ――。

ほろ苦い香りに誘われて、珈琲の世界に足を踏み入れる人は多いです。しかし、数え切れないほどの豆の種類に、やり方1つで味が変わる焙煎方法、そして、毎年発売される新しい珈琲器具の数々……。

その“沼”に踏み込んだ瞬間、底が見えないことに気づいて、珈琲の世界から距離をおく人もいるのもしかり。

しかし、そんな一筋縄ではいかない珈琲の世界をわかりやすく、楽しく、惹き込ませてくれるのが自家焙煎工房 焙煎香(ほうせんか)珈琲の竹内公人さんです。

竹内さんはくさつ平和堂 2階の焙煎香珈琲にて、深煎りを中心とした珈琲を提供しています。もともとは料理人でレストランを営んでいた竹内さん。しかし、卸していた珈琲屋のオーナーが店を閉めると聞き、お店ごと買い取り、2019年6月に焙煎香珈琲を開業しました。

開業まで時間がなかった竹内さんは料理や食材に例えて、焙煎方法などを理解していったと言います。その経験を踏まえて、“例え”を使ってわかりやすく説明し、お客様の好みに合った珈琲を提供。そんな竹内さんの珈琲に対するこだわりや今後の展望についてお話を伺ってきました。本記事では、竹内さんの珈琲に対するこだわりや今後の展望を紹介します。

それでは、みなさんも珈琲の沼に一歩踏み入れてみてください。

身近なモノで例えることで、惹き込まれる珈琲の世界

焙煎香珈琲で扱っている珈琲豆は、「スペシャルティコーヒー」と呼ばれるものです。スペシャルティコーヒーは原産地だけでなく、どこの農園の誰が作ったかも分かり、品質と生産ともにスペシャルティコーヒー協会から認定されたものになります。

竹内さんは、これらの説明するときに“お米”に例えることが多いそうです。

「『これはエチオピア産の〜〜という農園で〜〜』と言っても、お客様にはイメージがつかないんですよね。それよりも『スペシャルティコーヒーは、お米で言うと新潟県の魚沼産の〇〇さんという農園主さんが作っているのと同じだよ』と伝えると、少しは珈琲を身近に感じてくれるのかなと。

私みたいな珈琲マニアのお客様だと、専門用語を使ってもいいですが、大抵のお客様はそうではないです。珈琲屋の店主として、わかりやすい言葉に変換してあげることが求められていることではと思ってます」

珈琲屋を開業する前から、喫茶の地 京都に度々訪れるほど珈琲好きだった竹内さん。しかし、料理人から珈琲屋に転身する際は、焙煎がうまくいかずに失敗の数々だったそうです。

「ある時、珈琲豆の焙煎は肉料理に近いことに気づいたんです。肉料理は、強火で焼いちゃうと固くなってしまう。かといって、低温で長時間かけて焼くと水分が抜けてしまって、カスカスになってしまう。

これは、珈琲でも一緒です。高温で焼くと、中心部分が生焼けになって青臭い香りが残ってしまう。逆に、低温で長時間焼くと珈琲の香りが飛んでしまう。1番良いのは、ローストビーフのように熱が入るけど、ジューシーさが残り続けることだなと」

こうして、お客様にも“例え”で伝えるという竹内さんならではの接客が生まれました。

味覚は千差万別。自分の“好き”を発見できる珈琲屋

苦味が強かったり、すっきりとフルーティーな味があったり、様々な味わいを出せるのが珈琲です。一方で、人の味覚も千差万別。苦味を美味しいと感じる人もいれば、苦味が不味いと感じる人もいます。

それを踏まえて、竹内さんは「珈琲屋は町医者に似ている」と言います。

「町医者は、患者さんの体調などを把握しつつ、薬が合わなかったら違うのを処方します。珈琲屋も同じように、その人の味覚を踏まえた上で珈琲を提供すべきだなと。

同じプレミアムショコラでも、珈琲の入れ方によって、全然違う味になります。お客様の好みに合わせて入れることで『こっちのプレミアムショコラのほうが美味しい』と言ってくれた時は、嬉しいですよね」

しかし、苦いのが好き、甘いのが好きくらいは理解していても、どのくらい苦いのが好きか細かく味覚を把握している人は少ないのではないでしょうか。また、珈琲を飲み始めた人は、自分がどんな味が好きかもわかっていない人も多いことでしょう。

そこで、竹内さんは「珈琲豆の3種飲み比べ」と「コーヒー器具の飲み比べ」を提供しています。

「珈琲に対する“美味しくない”は、ただ単に“合わない”だけだと思っています。

メニューの1番目の珈琲はお客様に合わなかったかもしれないが、もしかしたら2番目は合ってたかもしれない。でも、1番目を飲んでしまったがために、お店に二度と足を運ばなくなる…なんてことはよくあることかなと思っています。そういう事態が発生しないためにも、『珈琲豆の3種飲み比べ』を提供しています。

また、自宅で珈琲を楽しみたいけど、どの器具を買ったらいいかわからないという方もいます。毎年、各メーカーがコーヒー器具を出していて、数が多いなか選ぶのはなかなか難しいです。また、同じ豆でもコーヒー器具によって味が違う…ということもあります。なので、『コーヒー器具の飲み比べ』も提供しています」

いろんなお客様に対応できる努力をするものの、1番は草津を

珈琲の世界では、豆の品種やコーヒー器具、焙煎方法など新しいものが出るスピードが早いです。それにともない、珈琲の流行りもあります。ここ数年では、さっぱりとした味わいの浅煎りが、若い人から人気です。

そこで今年の春、竹内さんは浅煎り珈琲の文化を学ぶため、東京へと向かいました。「できる」ことを増やして滋賀に帰ってきた竹内さんですが、浅煎りの珈琲を定番メニューにするつもりはないそう。

「1番の理由は、長年草津に住む人たちを大切にしたいという理由があります。長年草津に住む人たちは、昔ながらの深煎りの珈琲を好む傾向があります。私が『この豆入ったので、是非試してみてください!』とオススメしても、『いや、いつもので』と 断られます。(笑)

一方で、草津は大手企業のオフィスだったり、工場があったりで、他府県からの移住者が多いです。そういう人たちは、浅煎りの珈琲が好きだったりするので、好みに合わせてスポットで出しています」

定番は変わらずとも、日々珈琲への学びはやめない竹内さん。その理由は「できない」と「やらない」ことは大きく違うという、竹内さんの軸から生まれたものでした。

「私は『できない』と『やらない』は大きく違うと思います。『できない』というのは、知識や経験がないこと。『やらない』は知識も経験もあるけど、あえてやらないことだなと。

浅煎りの文化を学ぶために東京にいったり、いろんな豆の焙煎を試したり。『できる』ことを増やして、いろんなお客様に合う珈琲を出す努力は必要です。

でもやっぱり、私は長年草津に住む人たちを大切にしたい。あとは、私自身が深煎り珈琲のほうが、好きなんです。やっぱり、自分が納得したものを提供したいので、深煎り珈琲を定番メニューにしています」

珈琲と野菜が入り交じる、憩いの場を

珈琲の世界に楽しく、わかりやすく惹き込んでくれて、どこまでもお客様のためにできることを増やしていく竹内さん。最後に、今後どんなことをやっていきたいかを伺いました。

「ファーマーズマーケットでできた出店者さんたちとの繋がりを活かして、焙煎香珈琲でも野菜を売っていけたらいいなと思ってます。今の店舗である平和堂の2階では難しいのですが、店舗を持てたらやりたいです。

私が初めてファーマーズマーケットに訪れた時、無農薬野菜でここまできれいで、美味しいものがあるのかと感動したんです。せっかく、そんな農家さんたちと繋がれたので、ご縁を大切にしていきたいなと。

珈琲を飲みながら野菜を眺めて、『晩御飯のメニューどうしようかな?』と考えれる空間をつくりたいですね」

 

執筆後記

「朝起きて美味しい珈琲を飲む。その楽しみをつくるために、寝る前に豆を仕込んでおくんだ」

珈琲と言えば、友人が豊かな朝を迎えるために工夫していたことを思い出す。思い出すたびに、「珈琲豆を買ってみようかな」「コーヒー器具を見にいってみようかな」と頭をかすめるが、結局一度も実行に移すことはできなかった。

その大きな理由は、何を買ったらいいかわからなかったからだ。私は1日に1杯珈琲を飲むくらいで、どんな珈琲が好きかもわからない。そんな知識のない状態で珈琲豆を買って、美味しくなかったら、余った珈琲豆は捨てるしかない。珈琲を自宅で本格的に味わうには、そんな“リスク”が邪魔だった。

でも、竹内さんの話を聞いて、考えがガラッと変わった。わからなかったら、教えてもらえばいいし、飲み比べして“好み”を知ればいい。ずっと億劫で後回しにしていた「珈琲を知ること」が、竹内さんのおかげであっという間に解決してしまった。

そんな珈琲に対する考えが変わった私は、忙しい師走が終わったらカフェラテを作ってみようと思う。インタビュー時に竹内さんから「エスプレッソとスチームミルクって簡単にできるんだよ?」と教えてもらった。店でしか飲めないと思い込んでいたカフェラテを、自宅で試してみようと思う。

みなさんもぜひ、寒い冬を美味しい珈琲で乗り越えてみてはいかがでしょうか。