くさつFarmers' Market

取材記事

2019.03.23

琵琶湖のほとり、自然の中で循環する農業を目指す”レイクスファーム”の営み。

レイクスファーム[野洲市]

 滋賀県野洲市、あまりに大きな幹と高さで栗とは全く気付かない程大きな栗の木があります。その木を目印にして辿り着くのはレイクスファームさんの畑。

名前に”レイクス”とあるように、歩いてすぐ琵琶湖を感じられる場所に畑があります。この日は天気が良かったこともあり、畑から対岸の琵琶湖バレイも一望することができました。

今回はブルーベリー栽培を担当していた辻久美子さんが案内してくださいました。
辻さんが育てていたブルーベリーは、直植えかつ農薬不使用。冬の剪定時期にブルーベリーを荒らす虫たちと根気よく向き合うことが重要で。
手間暇と愛情がたっぷりと注がれたブルーベリーはFamers’Market 夏の風物詩となっていました。
しかし、そんなブルーベリーは近年の異常な天候や虫害、獣害に加え、辻さんが体調を崩されたことから栽培を継続することが困難になり、2024年の夏、周囲からとても惜しまれながらも最後の販売を迎えました。
粒が大きくて、一粒一粒の艶がきれいなブルーベリー。いくつもの種類が並び、どの種類にしようか心を躍らせながらナイトマーケットで購入されていた方も多いのではないでしょうか。

ブルーベリーの栽培は終了してしまいましたが、レイクスファームさんではブルーベリー以外にもたくさんの作物が育てられています。
今回はレイクスファームさんが農作物とどのように向き合い、育てているのか、艶めくお野菜たちの秘密をお伺いしました。

手間に愛情をかけて

レイクスファームさんの屋号に付けられた“レイクス”には、琵琶湖そのものと琵琶湖を取り巻く環境を大切にしたいという想いが込められており、そのため、太陽、水、土など自然からの恵みを最大限生かした環境にやさしい農業を実践されています。

けれども、無農薬で育てるお野菜と果物は雑草や虫との戦いの日々だといいます。
もちろん根気のいる作業ですが、安全なものをおいしく、たくさん食べてほしい、そんな母心をもって、農業をしていると話してくださいました。
手間を惜しまず、もの惜しみせず、手間に愛情を注ぐ。丁寧な作業をこつこつと積み重ね、自然の中で循環する農業を営む。レイクスファームさんの営みからは、普段忘れてしまいがちな「自然の中に生かされている」という感覚を思い起こさせてもらった気がしました。

バラエティ豊かな畑

案内していただいた畑には、春菊に、レタスに、玉ねぎに、日野菜に、ラディッシュに、ゴボウに…
畑の広さと品目の多さ、そして彩りの綺麗さに驚きました。そして印象に残ったのは、これほど数多くの品種のお野菜を育てられているのに、手入れが隅々まで行き届いていること。
畑を担当している、久美子さんのお義母さまの清子さんにお話を伺いしました。清子さんは嫁がれた1982年から、この立派な畑を守っているそうです。作物を軽々持ち上げ、きびきび動いている姿や口調は年齢を全く感じさせないパワフルなお方です。

清子さんによると、育てている品目はなんと約40品目。
無農薬・有機肥料で芽を出し、成育させるのが難しいニンジンも植っていましたが、時には他の雑草に負けてしまい育たないこともあるそうです。
当たり前のようにスーパーに並ぶ野菜だと思いがちでしたが、直接お話を聞くと知らないことの多さに気づかされます。

(可愛いらしいニンジンの葉っぱ)

良い土だからこそできる野菜そのものの旨み。

これだけ多くの野菜が元気に育ち、虫の被害も想像以上に少ない様子をみて、その秘密が気になりました。
そこで清子さんに聞いてみると、その秘密の1つが、土に混ぜ込まれた有機肥料だと言います。この肥料の正体は、漢方の搾りかす。においを嗅いでみると、たしかにほんのり漢方薬の匂いがしました。この匂いが除虫効果を発揮し、また土の栄養にもなるので土づくりに一役買っているそう。

お話し中、清子さんがゴボウを持ってきてくださいました。新鮮で美しい白色のゴボウは生で食べれると聞き、その場で洗ってもらっていただくことに。人生初の生のゴボウ。少し緊張しながら食べてみると、ふわっと鼻に抜けるやさしい土の香りに衝撃を受けました。
そして、冒頭に写真で載せた春菊も、その場で生で食べさせていただきました。まるで塩を振りかけたかのような旨味が口の中で広がります。
レイクスファームさんの生き生きとしたお野菜は、野菜そのものが持つ素材の旨みがぎゅっと詰まっていて、繊細な味を感じました。

執筆後記

「人が口にするものだから責任を持ちたい」

清子さんの言葉はとても力強く、その言葉の奥には、農家としての責任感と育てた野菜を口にする人への思いやりが滲みでていました。
スーパーマーケットで日頃見慣れているお野菜と、同じ品種で同じような形をしていても、見た目だけでは比べられない背景が野菜に詰まっている。お話を聞いたり、触れたり、食べたりする中で何度も感じたことでした。
農家さんの想いやこだわりを伝えるためにも、ますますファーマーズマーケットが日常の延長に存在する意義があるように思います。

この取材から約5年が経過しました。
現在もくさつFamers’Markeが継続して開催できているのは、レイクスファームさんを始めとした、多くの農家さんの支えがあってこそ。そして、そんな農家さんが活動を継続できているのはマーケットに足を運び、野菜を買ってくださる方々のおかげです。
5年前、『ファーマーズマーケットを日常の延長線上に』という想いとともに始まったマーケット。40店舗以上が常に並ぶいまとなっては、当時は小さなマーケットでした。
ありがたいことに今では月2回の開催を行うまでに成長し、皆さんの暮らしに寄り添える存在になりつつあると感じています。

ここからさらに5年先を見据えて、築き上げてきた循環の環(わ)を広げていきたいと思います。
出店者さんの「背景」や「こだわり」が伝わり、もっと食卓の喜びが広がりますように。
願いを込めて、執筆後記とさせていただきます。

(立派な野菜たち。清子さんのお気に入りは下仁田ネギのグラタン)

(プリッとかわいいラディッシュ)

(豊かな土壌で育った立派な大根)

(セレベスという品種の里芋。ホクホクした食感で海老芋に近い)