2022.09.16
食をみんなで支えていこう。無農薬・国産米粉のお米パンを作る「やまだし米」の挑戦
やまだし米[草津市]
焼きたてパンの匂いに包まれると、優しい気持ちになれる。
パン屋さんに入ったとき、トースターから取り出したとき、落ち込んでいたこともちょっと忘れられる気がする。
誰もが好きで、世界中の人から愛されているパン。だけど、食べられない子どもが実は多いんです。3歳までに食物アレルギーと診断された日本の子どもは約15%、なかでも卵・牛乳・小麦は上位に当たります。
「アレルギーのある子どもたちが、安全に食べられるパンを作りたい」
そんな思いで、滋賀県産を中心に、国産・無農薬のお米でパンを作るのが「やまだし米(屋号)」の三島麻衣さんです。「やまだし米」は、三島さんの旧姓「やまだ」と、お姉さんと一緒に活動していることから「やまだ」と「しまい(姉妹)」を合わせて名付けられました。
※お姉さんは県外にいるため活動を休止中。
現在、小さな子ども2人を育てながら、お米パンを焼いています。また、原材料となるお米を自ら育てることにも挑戦している三島さん。今回は「お米パンをみんなに広げて、食をみんなで支えていきたい」と語る三島さんの想いを伺いました。
無農薬・国産にこだわったグルテンフリーのお米パン
どのような材料で、どのようにグルテンフリーのお米パンが作られているのか。まずは、三島さんに焼きあがるまでの工程を見せてもらいました。
「今日作るのは丸パンです。メインとなる米粉は、麺やパンに優れている『ミズホチカラ』を使い、表現したい食感にあわせてコシヒカリなどをブレンドしています。秋田県産の『白神こだま酵母』は、生地を発酵させるために欠かせない酵母菌です。オオバコ属のプランタゴ・オバタという植物から取れる『サイリウム』は、水分を含むのでゼラチン状になるため、水分量が多い米粉のパンでも捏ねられるようになり成形できます。また、サトウキビから作られた『粗製糖』と『天日塩』、『米油』を使っています」
通常、パン作りには『グルテン膜』が欠かせません。グルテン膜は、発酵によって作られたガスを生地内に閉じ込めてくれるため、ふっくらとした食感を出してくれます。
しかし、小麦と水をこねてグルテン膜ができるため、お米にはありません。三島さんは「お米のネバつきで、グルテン膜となるものを作る」と語ります。
「先ほど材料で紹介した『サイリウム』が、水分を含んでくれるのでグルテン膜の代わりになります。また、生地のこね方も重要なんですよ。米をつぶすとネバっとしたものがでてきますよね。そのネバつきが、グルテン膜の代わりになってくれるので、お餅つきのようにこねるのがコツです」
生地が完成したら、発酵に移ります。お米は小麦に比べて発酵時間が短いですが、気温や湿度によって発酵時間を調整しないといけないそう。
「夏だと気温が高くて、酵母菌も活発になりますし、逆に、冬だと発酵しづらいので、時間がかかります。季節だけでなく、その日の天候や湿度にも左右されるため臨機応変に対応することが重要になってきます。
『酵母菌がパンを育ててくれる』と言っても過言ではなくて、菌と向き合い続けるのが、パン作りの楽しさでもあるんです」
現在、丸パン以外にも、食パンやメロンパン、スティックパン、ドーナツ、ロールパンなどを作り、お子さん連れの家族に大人気。くさつFarmers’ Marketでもいつも完売しています。また、三島さんは、多くの人たちにお米パンを広めるために自宅で体験教室※も開催しています。
※現在は、三島さんのお子さんが小さいため、お休み中。体験教室の案内はInstagramで更新されていますので、気になる方はチェックしてみてください。
子どものアレルギーがきっかけで作り始めたお米パン
2019年に子どもの小麦・卵・牛乳のアレルギーが判明したことがきっかけで、三島さんは無農薬・有機野菜にこだわるようになったそうです。
「子どものアレルギーが発覚する前から、小麦は体によくないという印象はありました。現在の小麦の約9割は、海外からの輸入品で、なかには遺伝子組み換えのものがあったりすると耳にしたり。
アレルギーが発覚してからは、本格的に無農薬・有機野菜を購入したり、農薬の危険性を学びました。そこから、考え方が180度代わり、お菓子や食品の袋の原材料欄をチェックし、添加物や遺伝子組み換えの物が入っている商品を避けるようになりました」
当時は、「無農薬・有機野菜について学び、購入するだけだった」と語る三島さん。しかし、岡崎公園で実施しているマルシェ「アースデイin京都」でお米パンと出会ったことで、「自分で作って、提供者になればいいんだ」と考え方が変わりました。
「お米パンを作りたいと思った理由の1つは、アレルギーをもつ子どもにパンを食べさせてあげたいなと。パンが食べられない子どもは、『みんなが食べられるのに、自分は食べられない』と感じることから、パン欲がすごいんですよ(笑)。それに応えられるようなパンを作ってあげたいなと思いました。
もう1つは、お米の消費量を上げたいからなんです。お米の消費量は、1962年のピーク時の半分になってしまっています。そもそも、ご飯は炊いてお茶碗によそったり、結んでおにぎりにしたり、何かと手間が多いのが原因な気がして……。一方で、パンは忙しいなかでも食べやすく、持ち運びがしやすい。お米パンが広まれば、お米の消費も増えるんじゃないかと思いました」
最初は、基礎となる食パンの作り方を学ぶために、教室に通った三島さん。その後は、独学で試行錯誤を繰り返していきました。お米パンを提供するなかで一番難しかったのは「美味しさを持続させること」だそうです。
「お米はグルテンがないので、パサつきやすいです。焼きたてを提供できたら一番いいのですが……。焼いてから販売までの時間、購入してから家に持って帰って食べるまでの時間など、どうしてもラグがでてしまいます」
美味しさを持続させるために辿り着いたのは、炊いたり蒸したりしたお米に、熱風をあてて急速乾燥させた「アルファ化」をパンを作る工程で一部しています。
「アルファ化米は、粘り気があり、吸水性・保水性が高く、冷めても硬くなりません。なので、パンのもちもちした食感が持続するんです。また、片栗粉やコンスターチを入れて、試行錯誤しましたね。
今では、生地をこねているときにネバつきが出てくると『きたきたこれ!』と思うほど、楽しい作業になりました(笑)」
まだ小麦の「代用」としてのイメージがある米粉ですが、三島さんはお米パンだからこその美味しさを追求し続けています。また、アレルギーがある子ども以外の人たちにも、お米パンを広めるために、マリトッツォやピザなど、さまざまなお米パン作りにも挑戦しています。
1人ではできない、みんなで叶えていきたい
お米パンを作るだけでなく、最近では有機野菜の栽培を教えてくれる体験農園「ぱたぱたふぁーむ」で、野菜作りも始めました。
有機・無農薬野菜を“購入”していただけだったのが、自らお米パンを“提供”し、さらにはお米や野菜を“育て”始め、「食の上流に登ってきて、楽しいです」と笑顔で語ってくれていました。
「子どもが離乳食のときは、オーガニック商品を購入するだけでしたが、それだけでは食はよくならないなと気づきました。そこから、お米パンを作り、お米を育てるようにもなりました。
でも、これらの工程を子どもを育てながら、1人でやるには限界があります。なので、どんどんいろんな人と協力しながらお米パンを作っていきたいです。食というものは、みんなで支えてこそのものだと感じているので」
執筆後記
「いつかは、お米パンの店舗をもちたいんです」
そう取材中に夢を打ち明けてくれた三島さん。お子さんを育てながらも、お米パンを独学で勉強したり、農業の勉強を始めたり。やりたいことにひたむきに取り組み、夢を追い続ける姿勢に、元気を貰えたような気がした。
なんせ、お米パンについて語る三島さんは、本当に楽しそうだった。
一方で、食を1人では支えられないという限界も感じていて、何度も「みんなでやっていきたい」という言葉が何度も出た。
三島さんがぱたぱたふぁーむに出会えたように、人と人の繋がりがくさつFarmers’ Marketで生まれたらいいな。そして、もっといろんな人を巻き込んで、みんなが少しずつ食を支え合えたら、もっと素敵な社会になりそうだ。
取材後に、小さな希望を見つけた気がする。
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