くさつFarmers' Market

取材記事

2018.11.16

自然と人と自分と向き合って。無農薬、無化学肥料でお茶を育てるチャガラ商店の想い

チャガラ商店[信楽町]

みなさんは日本の五大銘茶を知っていますか?

宇治茶、狭山茶、静岡茶、八女茶、そして朝宮茶。

日本文化の象徴でもあるお茶は、それぞれの風土によって異なる味や香りを楽しむことができます。ここ滋賀県にもいくつかのお茶の名産地があり、そんな中で今回訪れたのは、滋賀県甲賀市の朝宮地区。ここで育てられている「朝宮茶」は、日本最古のお茶とされ、かつては天皇に献上されたという伝統あるお茶です。

朝宮地区は、標高300m〜400mの高地に位置し、1日の気温差が大きく、霧が発生しやすい地域です。その特有の環境が、茶葉の香りを豊かに育み、「香りの朝宮」と呼ばれるほど芳醇な香りを生み出しています。そして、そんな朝宮茶をくさつFamers’Marketに届けてくれているのが「チャガラ商店」の相楽さんです。

もともと大阪府で美容師をされていたという相楽さん。なぜ美容師を辞めて、お茶農家という道を選んだのでしょうか。その背景やお茶づくりに込める想いを伺いました。

自分に合うものを求めて

相楽さんがお茶を育てる”茶人”になったのは、2013年のことです。

大阪府で美容師として働いていた相楽さんは、美容室で使用する薬品が肌に合わずアレルギーの症状に悩むようになったと言います。それでも、美容師という仕事は自分のやりたいことだったため、症状がでていても根性でなんとか続けていたそうです。

しかし、次第に手の指が曲がらないくらいまで荒れるアレルギー症状が出るようになります。「さすがにこれはよくないな」と感じている時、ある人との出会いをきっかけに「オーガニック」という考え方に出会います。そこから、自分には植物に関わる仕事が向いているのではないかと思うように。

それからしばらくして、美容師として働くことを辞め「自分に合うもの」を求めて、植木屋と林業、そしてお茶の木の刈り職人として働きはじめました。

お茶農家の魅力と始まり

相楽さんがお茶農家さんを手伝ったときに感じた魅力、それは収穫期のお祭りのような雰囲気だといいます。

お茶は5月の初めから終わりにかけて新芽が刈り取られ、新茶がつくられます。この期間、各地から季節労働者の方が集まり、寝る間も惜しんで皆でお茶を刈り取り、加工します。

この時期は寝不足で疲れていても、皆どこか楽しそうで、農家同士でする話はお茶のことばかり。お茶と向き合い続けるこの時期は、とても大変だけど、なんだか楽しい。その楽しさが自分に合っているという感覚だったそうです。

そして手伝いを始めて5年ほど経った時、お茶の刈り職人として働いていた相楽さんに、ある1人のお茶農家さんから「自分の茶畑を継がないか?」と声をかけられました。

これが『茶楽園(のちのチャガラ商店)』の始まりです。

“チャガラ商店”相楽さんの育てる無農薬・無化学肥料のお茶

オーガニックでのお茶の栽培はとても難しく、収穫量は慣行農法の半分以下になることもあると言われています。

それでも、相楽さんは初めから自分の茶畑を無農薬、無化学肥料の有機農法で育てようと決めていました。それは、「自分たちがしたことは自分たちに返ってくる」という考えが基になっていると言います。

「農業の排水が琵琶湖に流れ、飲み水や魚を通して結局自分たちに返ってくる。それが嫌なら、自然を傷つけることをやめて、元の姿に戻していかないといけない」

相楽さんの茶畑では、化学肥料や農薬は一切使わず、肥料には油粕を撒いています。そして、土を耕さない自然農法を採用。耕さなくても土がふかふかしているのは、土中の微生物がつくり出した“マンション”のような構造が保たれているからだそうです。

 「今年は野菜たちの元気がよくて出来がいいな、と感じる時や、去年は見かけなかった雑草が顔を出す時。そんな瞬間に、土の中で何かが起きていることを感じます。それは、地球と自分が繋がっている気がする瞬間でもあるんです」

 そう語る相楽さんからは、目に見えない土の変化やそこから伸びる植物を丁寧に観察し、自然の力と共にお茶を育てている姿が見られました。

就農したての1年目、売り先が見つからない中で試してみた、お茶の”たい焼き”

くさつFarmers’Marketでは「たい焼き屋さん」という印象の強い、チャガラ商店さん。

たい焼きを作るようになったのは、お茶農家になって1年目の気づきがきっかけでした。
お茶はたくさん収穫できたものの、なかなか売れない現実。JAに買い取ってもらうのも難しく、相楽さんはお茶を販売することの難しさを痛感したといいます。

そこで、朝宮茶を使ったかき氷やたい焼きなど、新しい形でお茶を楽しんでもらえる工夫を取り入れます。そして、茶葉のみの出店から、お茶をより身近に感じられる今の形に変化していきます。

現在、マーケットで販売するたい焼きは卵・乳製品不使用のVegan。
初めは卵・牛乳を使っていましたが、出店の中でアレルギーのある人が多いことに気づいたそうです。そこで、みんなが食べられるたい焼きにしたいという思いからレシピに改良を重ね、Veganたい焼きに変化しました。

「お茶に関わりがない人にもお茶を身近に感じてもらえるきっかけになってほしい」「みんなが食べられるたい焼きを作りたい」

チャガラ商店さんのたい焼きは、包みこむように優しく、心がほっこりとする味がします。それは、相楽さんのそんな想いが込められているからかもしれません

お客さんをお洒落におもてなしする”お茶

訪問中、屋外だったのにもかかわらず、お茶を淹れておもてなしをしてくれた相楽さん。わざわざ、ガスコンロを準備してくださっていました。
青空のもと、緑が広がる茶畑を前にいただくお茶は格別で、最高の時間でした。

[茶化す]・[茶を濁す]・[無茶]…

日本語には、たくさん「茶」という言葉が出てきます。これは、お茶の文化が古くから日本で根付いていた証ではないでしょうか。

けれども私たちは、ペットボトルのお茶ばかり飲むようになってきています。確かに忙しない毎日が続くこの時代にペットボトルのお茶はすごく便利です。
しかし、お湯を沸かして、茶葉を入れて、ポットに注いで、少し待つ…手間と時間がかかるからこそ感じる美味しさと癒しがあるはずです。

「友人が遊びにきたときには、こうやってお茶を淹れておもてなしする文化をまた作っていきたい。」と、相楽さんは語ってくれました。

執筆後記

無農薬でお茶を育てられている理由をお伺いした中で、印象的な相楽さんの言葉がありました。

「農薬もすごく使うし、化学肥料もめっちゃ使うのがこの業界。ただ、農薬や化学肥料を使用することが必ずしも悪いことではない。」

一般的な慣行農業を否定することはなく、相楽さんの姿勢には農家さんへのリスペクトがありました。

くさつFamers’ Marketに並ぶお野菜は、オーガニックのものがほとんどです。けれども、「オーガニックが善で、それ以外が悪」とか、「プラントベースのものをもっと食べましょう」と強要したい気持ちがあるわけではありません。

スーパーに行けば安くて形のそろった野菜が手に入り、ネットならこだわりある美味しい野菜をワンクリックで注文することができる便利な世の中。便利さや価格、見た目で野菜を選ぶことが多い中で、ファーマーズマーケットで農家さんから直接買い物をすることも選択肢の一つに加えられたら素敵だと思っています。

偏りすぎず、バランスよく。

慣行農業と有機農業、両方が互いに共存していくことが大切だと考えています。

それぞれを尊重しながら農業に向き合う相楽さんの姿勢は、すごくかっこよく見えました。