2025.05.10
想いの集まるあたたかい拠り所に。藤堂さんがyamagoyaとつくる場所。
yamagoya[草津市]
昨年2024年12月、草津市に店舗をオープンされたyamagoyaさん。
くさつFarmers’ Marketではグラノーラの素材の瓶が並ぶ姿が印象的な他、豆花やカンパーニュサンドなど、多様な料理を提供されています。
また、店主の藤堂壮馬さんはいつも笑顔で接してくださり、マーケットで藤堂さんと話をすることを楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。
今回は店舗に伺い、”yamagoya”と藤堂さんについて、藤堂さんにとってのくさつFarmers’ Market、そして店舗への想いなどをお聞きしました。
“yamagoya”に込めた思い
みなさんは「山小屋」と聞いてどういったイメージを思い浮かべるでしょうか。
藤堂さんは、子供の頃から実家のログハウスに居心地の良さを感じていただけでなく、家族の影響で山や自然に多く触れ、中でも登山の際に利用する山小屋に魅力を感じていたと言います。
「山小屋は運営している人が結構変わるんですけど、趣味やボランティアでやっている人が多くて。
登山客が安心して登れる場所作りが重視され、利益よりもロマンみたいなもので運営してる人がほとんどなんです。
だからか、行くたびに中にいる人や食事のメニュー、利用できるものは変わっていても、絶対いつ行ってもあったかいんですよ。」
単に観光地としての場所、暖を取って休むための場所ではない、懐の深い山小屋の魅力に惹かれていたとのこと。
そんな子供の頃から身近にあった山小屋のイメージは、活動を始められる際の想いとも通じる部分があったそうです。
加えて活動を決める時期、自分自身の生き方を考え、今の道に進む選択をされたのは、ご自身の病気がきっかけだったと話していただきました。
「学生時代、病気や症状の関係で人と同じように生きられないと気づいたとき、それでも周りが支えてくれて前を向けるようになってきたとき、これからは自分が生きていける環境を自分で作りたいと思った。
それができたら、次は似た境遇の人や社会に生きずらさを感じている人たちに向けて、よりどころとなれる組織づくりをしていきたいとも考えるようになっていた。そんな想いは、自分の体験してきた山小屋のイメージに近く、”yamagoya”を始めることを決めました。」
くさつFarmers’ Marketといきる
”yamagoya”として活動を始められたのはコロナ禍の時期。
オンラインでグラノーラの販売をされる中、くさつFarmers’ Marketの存在を耳にしたそうです。
実際に足を運び、マーケットの持つ穏やかさに自身の想い・作るものと通じる部分を感じたことから、出店の応募を決めたと言います。
そしてさらにその裏側には、密かな後押しがあったことを教えていただきました。
「くさつFarmers’ Marketにも出店されている、レイクスファームの久美子さんが育てられているブルーベリーを父が時々買ってきてくれていて、グラノーラにも使わせていただいていました。
ある日、久美子さんからグラノーラの注文が入ったのですが、そのグラノーラをくさつFarmers’ Market代表の内田さんにプレゼントして、是非出店させてあげてほしい!と僕を推薦してくれていたそうなんです。その縁もあってか、出店を始められることになりました。
後から聞いたときはとても嬉しかったし、初めての出店や対面の販売で不安もある中、自分のことを知ってくれている、応援してくれている人がいるということは本当に心強かったです。」
お守りのような、素敵なご縁から始まった出店。
しかしそれだけではなく、出店後もマーケットのあたたかさを感じるばかりだったと藤堂さんは言います。
「ここのマーケットのすごいところは、初めての出店関係なく、他の出店者の皆さん がどんどん話しかけに来てくれるところなんですよ。
商品の話を聞いて褒めてくれたり、お客さんに推してくれたり、逆に自分がどんなことをしているのか教えてくれたり。初出店でおどおどしていると、みんなが助けようとしてくれて、もう感動しました。」
「くさつFarmers’ Marketへは、どんどん強い想いで向き合うようになりました。
人を助けられるようになりたいと始めたyamagoyaだったので、近い部分もあって。
くさつFarmers’ Marketのことは頼りにしているし、同じくらい頼りにされたい存在です。
マーケットを通して、かつ僕のやり方でマーケットに関わる人たちや社会、環境へ貢献していきたいと思います。店舗も始めましたが、よほどの予定がない限り出店を休まないようにしています。」
グラノーラへの思い、グラノーラから生まれる思い
くさつFarmers’ Marketのあたたかさに囲まれながら、出店を積み重ねてこられたyamagoyaさん。
今やマーケットでは、ドライフルーツやナッツなどの入った瓶がずらっと並んだ景色がトレードマークになっています。
yamagoyaさんのメインの商品は、”オーダーメイドグラノーラ”。
初めは、自身の健康のためにグラノーラを手作りされていたそうです。
脳腸相関、脳と腸はお互いに影響し合っていることを意味する言葉。
藤堂さんは、”腸の状態がいいと自律神経が整う”といった医療的な考え方を知ったことから、腸を整えるために食物繊維を意識して摂るようになったとのこと。
その中でもグラノーラに使われているオーツ麦は、お米の何倍も食物繊維が豊富な主食と言われ、食べていて一番しっくりきたそうです。
グラノーラはオーツ麦に米粉や植物性の油、砂糖を混ぜて焼いた、甘さ控えめなクッキーのようなもの。これを砕き、他の素材とブレンドをするのだと教えていただきました。
初めは自身の健康のために作られていたということもあり、藤堂さんの作るグラノーラは体への優しさを目指したもの。
味付けも一般的な白砂糖ではなく、甘さ控えめで血糖値も上がりにくいメープルシロップを使われています。嗜好品に近い市販のグラノーラが多いなかで、少し素朴な味わいですが、健康においしく食べられるようこだわっておられるとのことです。
ブレンドする素材には、ナッツやドライフルーツの他、近江園田ふぁーむさんの玄米ぽんに 大豆ぽん、茶縁むすびさんの政所茶で味付けをされたナッツなど、藤堂さんご自身で選ばれた素材が用意されています。
この、好きなものを選んでブレンドする ”オーダーメイドグラノーラ”の形が、藤堂さんのグラノーラの大きな特徴です。
「食べる人を思いながら作る、手紙のような時間」
ブレンドする素材を選ぶ時間のことを、藤堂さんはそう表現されていました。
妊娠した妻へのプレゼントに、栄養素がしっかり補給できるグラノーラを。
鉄分を摂ってほしいからイチジク多めのグラノーラを。
苦手だろうからドライフルーツを避けるということだって、その人のためだけのグラノーラになることには変わりなくて。
渡す人・食べる人を考えてお客さんとともに作るブレンドの時間を、藤堂さんはとても大切にされているそうです。
「とても印象に残っているのは、『私今日元気がないんです。元気がでるグラノーラをください』というオーダー。テンション上がりました。具体的なオーダーがなくても、その人がどんな性格か、どんな雰囲気かとかを考えて作ることもあります。お花を贈るのにも似ているかもしれないですね。」
素材を選んで好きなようにブレンドすることに対する想いに触れ、今すぐにでも誰かにグラノーラを贈りたい気持ちでした。しかし、藤堂さんの”オーダーメイドグラノーラ”へのこだわりはそれだけではありませんでした。
オーダーメイドは、自分のほしい分だけを買うことができる買い方。自分で入れ物を持参して好きな量を買うという量り売りの仕組みが、もっとスタンダードになってほしいと藤堂さんは言います。
「瓶などの繰り返し使える容器に詰めることでプラスチックのごみを減らせるだけでなく、買いたくない量を無理に買わなくて済むというメリットもあります。
1,2回分試してみたい人も、1ヵ月分ほしい人も、それが選べる場であってほしい。
そういう買い方がもっと認知されてほしい。」
くさつFarmers’ Marketでは、yamagoyaさんの他にも量り売りの形式で販売されている出店者さんや、マイカップで飲み物を購入している来場者さんの様子をよく目にします。
少しずつかもしれませんが、それぞれの取り組み、行動により、マーケットでの量り売り・マイカップ持参の認知や意識も広がっているように感じます。
店舗オープンと、変わらない想い
yamagoyaさんはマーケットやイベントの出店から形を広げ、昨年2024年12月、マーケットの会場であるde愛ひろばの近く、草津市に店舗をオープンされました。
月替わりのランチや、名物のバスクチーズケーキを始めとするスイーツなどを提供されています。
マーケットではいつも人気ですぐに売り切れてしまう藤堂さんのお料理が、店舗でもゆっくりいただけるようになりました。食材も、なるべく滋賀の生産者さんから仕入れられています。
店舗は、くさつFarmers’ Marketにも出店されていた視点定点さんが使われていた場所を引き継がれたとのこと。マーケットでお世話になった、店主の方からのアプローチによりこの場所に決められたそうです。
こちらもくさつFarmers’ Marketの縁に応援される形で決まったスタート。
yamagoyaに込めた想い、作りたい形はそのままに、今後どのように店舗や他の活動を両立されていくのか。今のお気持ちを伺いました。
「店舗はオープンして2ヵ月ほどですが、作ってよかったと思ってます。
外で出店しているときは1人のお客さんと話せる時間って数分で、どうしてもちょっとした世間話をして終わってしまう。それが店舗だと、のんびりめな日はゆっくり話をできる時間があったり、僕と話したくてお客さんが来てくれたりする。この前は閉店少し前に来てくれた人と、つい話し込んじゃうこともありました。
ご飯を食べてもらうことはもちろんだけど、ひとりひとりと深く話ができるということも大切にしていきたい。」
と、本当に嬉しそうに話される姿に、藤堂さんの作られたいyamagoyaの姿が既に形になり始めているような気がしました。
山小屋の中の人が変わっても、そこにあるあたたかさは変わらないように、
藤堂さん本人が店舗やその場にいなくても居心地よく感じてもらえる場所づくり、スタッフそれぞれの魅力を感じてもらえるyamagoyaづくりも目指されていくそうです。
また、今後の店舗の使い方の1つとして、くさつFarmers’ Market出店者の方々の交流の場にもなってほしいとおっしゃっていました。
普段出店者さん同士は、準備や片づけで挨拶程度の会話になってしまうことも多いため、マーケット後に店舗に自由に集まり、皆でその日のマーケットの振り返りをしたり、それぞれが作っているものについて情報交換をしたりできる場になれば理想とのこと。
加えて藤堂さんには、マーケットでも他の出店者さんにいい刺激を与えられるよう、出店スタイルにこだわりたいという考えもあるそうです。
「自分のスタイルを見てもらうことで、出店に対する認識のようなものも向上するきっかけになればと考えています。
時々県外の大きいイベントに出たりすると、ディスプレイの仕方や商品の売り込み方など、自分たちがこだわりきれ こだわれていない部分、改善点を感じることがあります。
外で得た気づきをマーケットでの出店に反映することで、それを見た周りの出店者さんが参考にし、工夫を取り入れてもらえると、マーケット全体の質が それぞれの売上ももっと上がるのではないかと思っているんです。そんな風にいい影響を与えていけたらと思うし、皆で高めあっていきたいと思っています。」
“くさつFarmers’ Marketがなければ今のyamagoyaはない”と話してくださった藤堂さん。
色々な人の想いに後押しを受けて支えられてきた今の活動が、今後別の誰かの背中を押し、可能性を広げるきっかけとなるよう、これからの日々も大切に出店されていくのだと思います。
あとがき
「藤堂さんの持つあたたかさが、あたたかさで返ってきているような気がします」
藤堂さんとyamagoyaのあゆみについて触れ、話の中でそんな風にお伝えしました。
マーケットでの今までのお写真を拝見しても、どれも笑顔の姿ばかりで、ひとりひとりを優しく迎え入れてくれるような雰囲気が伝わってきました。
しかし藤堂さんは、それは全くの善意ではなく、無償の愛ではなく、ただ自分が好かれたいと思っているからこその行動なのだと話されていました。
「自分が大好きだから、大好きな自分が人から頼りにされていたい、感謝されたい。そういうエゴをむき出しにして、ただ素直に人を助けることが、逆に純粋さに繋がっているかもしれない」
好かれたいという想いがあったって、日々絶え間なく誰かに親切でいることはきっと難しい。
ご本人がエゴだと呼ぶような素直な想いや行動も含め、藤堂さんを作るあたたかさなのだろうと私は思います。
そしてお話の後、私も実際にグラノーラのブレンドをお願いしました。
久しぶりに会う祖母に。硬いものは苦手かな、フルーツは好きだけど酸味が強すぎない方がいいかなと、ブレンドする素材を選んでいる時間は大切な人を想う時間そのもので、プレゼントする立場の私まで優しい気持ちになれました。
“自分のための場所”、”誰かのための場所”
そんな想い入れから始まったyamagoyaは、藤堂さんをはじめ、様々な人の想いが集まる場所、伝播する場所として、もっともっと、おおきくあたたかい手をもつよりどころになっていくのではないかと感じています。
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