2019.05.01
じわ〜っと口に豆の風味が広がるような美味しさ。食べ飽きない理想の豆腐をつくる「あやべとうふ店」
あやべとうふ店[長浜市]
(2019年5月訪問)
今回訪ねたのは、滋賀県長浜市にある”あやべとうふ店”さん。伊吹山の麓、川が流れ、趣ある民家が並ぶこの場所で、ご夫婦でひっそりと営まれている。滋賀の通人なら知らない人はいないお豆腐屋さん。そんなあやべとうふ店のできた背景について聞く機会を、店主・綾部徹郎さんよりいただいた。
便利さの中で感じた不安
関東で一度就職をし、設計などの仕事をしている中で、自分が目指したい方向は何か考えることが増えてくるようになった徹郎さん。便利なものが溢れる中で、普段使っているコンビニやスーパーが使えなくなったら、インフラがとまったら、と社会に依存しがちだった生活に目を向けた。
2年間の旅で得たもの
その違和感は、日に日に大きくなり、ついに退職を決意。最初の一年はニュージーランドでワーキングホリデー。もう一年は沢木耕太郎の深夜特急にインスパイアされ、ユーラシア大陸を横断。妻・はるみさんとの出会いは道中のタイだったのだとか。
この2年間で、徹郎さんが頭で感じていた違和感や悶々としていた思考が整理されていく。
食べることは生きること
帰国後は職人として、あるいは何かを提供できるような道に進もうと考えるようになった徹郎さん。その中でも生きることと切っても切れない関係である食に関わる仕事をしたいと思い、三重県の飲食関係の会社で5年間、経験を積んだ。
意図していなかった豆腐との出会い
しかし、豆腐部門を任された当初の業績は芳しくなく、その後もどんどん悪化。一度は豆腐部門を潰してしまうという話まで出た。
幸せホルモンを導く大豆
大豆には、必須アミノ酸であるトリプトファンという物質が多く含まれ、食べることでセロトニンというホルモンを分泌する。このホルモンは、温泉に入ったリラックス状態の時などにも分泌される癒しの効果がある。徹郎さんの口調もまさにそんな感じ。どんな質問にも丁寧に答えてくださった。
長浜という地で
2年間の旅の間に、食に関する仕事をしたいという想いと、地域に根を張り、その土地の人との生活を楽しみながら、地元を味わうくらしがしたい。そう考えていた徹郎さん。知り合いの紹介で、縁あって長浜を知ることになり、ちょうど独立するタイミングも考えていたところだったことから移住を決断。
蔦に絡まった古い豆腐の機械を譲り受けるなど、新天地で様々な協力を経て、ついに9年前、長浜市であやべとうふ店が誕生した。
進む豆腐の二極化
独立してからの半年以上は、これといった決まった販路先が見つからず、先の見えない時期が続く。そんな中、スーパーなどに並ぶ豆腐は、大手メーカーがコストをかけて大量に生産できる機械を導入し、価格競争が激化。
より身近に安価で家庭に豆腐が買えるようになる一方で、個性ある豆腐は百貨店などで売られ敷居の高くなるという二極化がおきた。個人として生き残るために、また自分が納得する美味しいお豆腐を食卓に届けるために、試行錯誤の日々が続く。
偶然の産物
昨今、豆腐を製造するために新しい機械が次々に開発されていく中、あやべとうふ店にある機械はかなり古いもの。この機械だから生まれた偶然の産物が、”しっとり豆乳を含んだおから”。
新しい機械であればあるほど、いかに同じ量の豆から、より多くの豆乳を絞り出すかという効率が上がる一方で、出てくるおからはカラカラ。そんなおからは炊いてみてもふわっと出来上がらないことが多いが、あやべとうふ店のおからは全く違う。
おからが美味しいだけに、おからフライやおからサラダとしても人気商品になっている。
食べ飽きない理想の豆腐を
理想の豆腐像は、豆乳の濃度が高いいわゆる濃い・インパクトのある豆腐ではなくて、素朴な豆の風味が味わえる豆腐。濃い豆腐は、一口目は良くても食べ進めるとどうしても飽きてしまう。日常に食べられる豆腐であるためには、瞬発的に甘みを感じる美味しさより、じわ〜っと口に豆の風味が広がるような美味しさが大事だと徹郎さんは考える。
これからの行き先
店での販売のほかに移動販売や出店形式での販売をすることが多い、あやべとうふ店さん。知名度は、年々増しているものの出店機会を待ち望む方が多く、なかなか長浜のお店まで足を運んでくれる人は少ない。綺麗な水が流れ、穏やかな雰囲気。また違う雰囲気の滋賀を味わえる長浜まで、ぜひみなさんも行ってみては。
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