2022.12.01
お客さんの悩みがこぼれ落ちる場に。食堂ヤポネシアを営む店主が、丁寧な接客を心がける理由
食堂ヤポネシア[近江八幡市]
滋賀県近江八幡にある「食堂ヤポネシア」では、滋賀県産の旬の野菜や琵琶湖の湖魚を使っています。仕入れた旬の食材を踏まえてメニューを考えるため、訪れる度に違う料理が味わえます。
フラッと一人でいってもよし、家族といってもよし。商店街に面したお店は、どんなお客さんでも受け入れてくれる雰囲気を持っています。
食堂を運営するのは、松岡宏行さん。居酒屋を10年営んだのち、グループホームや自然栽培「おもや農園」を運営する特定非営利活動法人 縁活でオモヤキッチンを立ち上げ、そして独立しました。
食堂ヤポネシアが掲げるのは「なんてことない、いつものごはん」です。そこに込められた松岡さんの想いとは?どのような経緯で、食堂を営むことになったのでしょうか?
この取材記事では、くさつFarmers‘ Marketでは体験できない夜の食堂ヤポネシアの様子をお届けします。
近江八幡の食材を使ったこだわりのメニュー
食堂ヤポネシアは、近江八幡の旬の食材を使ってメニューを考案しています。食材のなかには、くさつFarmers‘ Marketで出店していただいている『小林ファーム』や『近江園田ふぁーむ』の野菜もあります。
旬の食材によってメニューが変わる食堂ヤポネシアですが、ポテトサラダと干しソーセージは定番のメニューです。滋賀のお酒をクイっと一杯飲みながらいかがでしょうか?
こちらの取材を実施したのは9月の終わり頃で、ゴーヤや空芯菜など、最後の夏野菜を使った料理が多かったです。空芯菜の炒め物は、シャキシャキ感を残して、ニンニクのパンチが口に広がりました。
ゴーヤの炒め物は、鰹節とゴーヤの相性が抜群で、ゴーヤがほろほろと口の中で溶けていきました。
食堂ヤポネシアでは、滋賀県産の旬の野菜や琵琶湖の湖魚を使い、常に10種類ほどのメインメニューを準備しています。仕入れの材料が時期によって異なるなか、なぜそこまで豊富に料理を揃えているのでしょうか。
松岡:まずは、お客さんに料理を選ぶ楽しさを味わってほしいと思っています。いろんな料理があると「どれにしようかな」と楽しくなるじゃないですか。
あとは、作っている僕自身が準備するのが楽しいからですね。一時期は「ベジメニュー」「肉メニュー」「魚メニュー」の3種類に決めていたことがあったのですが、作っていて面白くないなと(笑)。そこから、厨房のコンロをフル稼働して作れるマックスの料理数を提供しています。
障がい者が楽しく働ける場を作るため、模索してきた
松岡さんは重度障害者施設であるびわこ学園で生活支援員をしていました。退職後、夫婦での世界旅行を経た後に『びわこ学園医療福祉センター』の職員食堂で働きながら調理師免許を取得。これが松岡さんにとって料理人としてのファーストキャリアでした。その後、独立して居酒屋を運営。そこで、現在特定非営利活動法人 縁活の代表をする杉田 健一さんとの出会いが、松岡さんの転機となります。
松岡:居酒屋のお客さん経由で、杉田さんには出会いました。当時は、法人を設立しようか悩んでいた頃で。「そんなに悩むなら、やってみたらいいじゃないか」と私が言ったのも後押しになり、縁活が始まりました。
2009年、障害者向けのグループホームの運営から始まった縁活。そこから、障がい者の就労支援として、無農薬・無肥料・無除草剤による自然栽培に取り組む『おもや農園』も2011年からスタートしました。
松岡:当時は、おもや農園の野菜を買って、居酒屋の料理に使ったりしていたんです。配達にきてくれるグループホームの利用者に「お客さんが美味しそうに野菜を食べてたよ」と伝えると、喜んでくれるんですが、やっぱり直接お客さんと接してほしくて。
居酒屋を10周年の機会に閉めて、2015年からおもや農園の野菜を使った料理を提供する『オモヤキッチン』を始めました。利用者もキッチンで働いてくれて、実際に育てた野菜をお客さんが喜んで食べている姿を見てもらうことができました。
『オモヤキッチン』を運営する一方で、見えてきた課題もありました。それは、利用者にとって、接客が必ずしも得意ではない人もいることです。料理を運んだり、お会計をしたりではなく、もっと違う仕事を頼めたらいいのではと考え、ゲストハウス運営に着目しました。
松岡:お客さんの顔も見えつつ、接客以外の清掃などの仕事があってゲストハウスは相性がいいのではと思いました。近江八幡は旅人が寄る街でもありますし、ピッタリだなと思ったんです。
でも、資金で1000万円かかったり、ゲストハウスでは補助金が出ないことがわかって。場所を借りてしまったのに、ゲストハウスは難しいことがわかってきました。
そこで、手始めに慣れている飲食店から始めようと思って、食堂ヤポネシアを2019年にスタートしました。
悩みがこぼせるような第三の場を目指す
食堂ヤポネシアができてから4年目、どのようなことを大事にしながら営んでいるのでしょうか?
松岡:僕は、スナックのママと飲み屋のマスターは、「まちのメンタルの最前線」だと考えていて。「ちょっとママ聞いてよ!」と大企業の部長が愚痴をこぼしたり。そういう場所がまちには必要だと思っています。
食堂ヤポネシアは、お客さんがポロッと愚痴をこぼせるような場所を目指しています。家族でも、恋人でも、友人でもないからこそ話せる。そういう第三の場であれるように心がけています。
愚痴をこぼしていいという安心感をつくるために、松岡さんがこだわっているのは「接客」だと言います。一つひとつの言葉を丁寧に接客してきたのは、学生時代のアルバイトから続けてきたことだそうです。
松岡:料理をゴン!と置くのか、「はい、どうぞ」と置くのかだけでも大きな違いですよね。アルバイト時代は、ただお客さんからの反応がかえってくるのが面白くて、「もう外は雨は降ってますか?」と聞いたりしていましたが。今振り返ると、当時からどうお客さんと接すればいいか考えていたのかなと思います。
食堂ヤポネシアでは、セルフサーバーでお冷やを提供しているのですが、「セルフですか?」と聞かれることがあって。「セルフです」と言ってしまうと「水を汲まされてる感」がでてしまうのですが、「ご自由に!」と答えると悪い印象は受けないですよね。そういう細かな言葉に気をつけています。
悩みがこぼせる場所を目指したいという松岡さんの活動は、食堂ヤポネシアに留まりません。最近では、病院に行くまでもない心身のトラブルを相談する『すわい保健室』にも取り組んでいます。
さらには、地域のつながりを作るためのバザールを酒游館にて開催しています。近江八幡の近くに住む人たちは、ぜひチェックをしてみてください。
特別すぎない料理を目指していく
2021年10月、新型コロナウイルス感染症の流行で、開店できる時間が短くなったこともあり、松岡さんはくさつFarmers‘ Marketの出店をはじめました。マーケットでは、カオマンガイやグリーンカレーなどを販売。縁活のグループホームの利用者さんも、接客やお会計として出店を手伝ってくれています。
今後、食堂ヤポネシアが何を目指して活動をしていくのか。「まずは継続すること。そして、障がい当事者が活躍する場所づくりを第一に考えていく」と松岡さんは語ります。
松岡:コロナの影響もあり、まずはしっかり継続していくことを大事にしていきたいです。継続していく中で原点でもある「障がい当事者が活躍する場づくり」は、今後も模索していきたいです。
あとは、「特別すぎない、美味しすぎない料理」を目指していきたく、「なんてことない、いつものごはん」というのをインスタグラムのトップにも書いています。例えば、携帯を見ながら食事する人がいても、美味しかったら完食するし、不味かったら残す。
携帯を見ながらでも食べれるくらい、気取らない美味しいものを作っていきたいですね。厳選した食材で、いかに美味しくつくるかは当たり前なので。押し付けがましくない「いつものごはん」を提供したいです。
執筆後記
大人になって、弱音を吐きづらくなった。
仕事が大変で、将来どうしようかな──。
そんな小さな弱音を伝えようとすると、「いつも疲れている人だな」「なんだか一緒にいると楽しくないな」と思われてしまうのではとこわくなってしまう。そんなときに、フラッといける食堂があったらどれだけ有難いだろうか。
美味しい料理とは不思議で、人の心を素直にしてくれる。
「泣きながらご飯食べたことがある人は、生きていけます。」という言葉がある通り、料理は心を丸裸にして、そして、元気をくれる存在なのだろう。
ポロポロと弱音をはいてもいい、受け止めてくれる。そんな食堂ヤポネシアに、ぜひとも足を運んでみてほしい。
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